hideモバイル-JETS-

「あ、hideくん！」。フッとステージに現れたその姿に、思わず記憶が反応した。
3Dメガネをかけてるわけでもないのに、どう見ても彼はそこに立っていた。
上から下まで、誰もがどこかで見たことのあるアノ衣装で。
歌に合わせて動きが始ると、さらにリアル感は高まった。生前にライヴで、のちにそれを収録したライヴ作品で、もう何回となく見て振り付けのようにまで思えていた独特の動きの数々。
いま、目の前のhideは、あの時のまんまのアクションでステージを右に行ったり左に行ったりしている。
曲がブレイクした部分でポロッとセリフを言う所の生々しさにもハッとさせられるものがあった。

さらには今回初めてお客さんの前で披露される曲の数々。
そんなhideパフォーマンスとこれまたライヴかつサラウンドなバンドサウンドに対して歓声を上げ、サイリュームを振り、一緒に歌うお客さんたち。
ライヴが終わってふと我に帰った時、最初に感じた驚きは倍増していた。いま目にしたものはすべて、ゼロからコンピュータ・グラフィックスによって創られたもの。すごい！
ただ立っているだけならともかく、あれだけ何曲も歌い踊っていたのが、実は完全にプログラミングによるものだったなんて。そこにはボクらの想像を超えた数値や数式の世界があったのだろう。

でも、その結果これほどまでに生々しい彼が現れたのだ。
これはhide自身がやりたかった世界なのだと思った。
誰よりも早くコンピュータとロックを融合させ「ピンク スパイダー」を発表するころにはPSYBORG（cyborg= 人造人間と彼のキーワードの一つだったPSY=心を合体させた造語）という言葉を口にしていた彼、なのだから。

17年目にして実現したhideの大きなネクスト・ステップ。本人不在のままそれを形にしてみせたスタッフたちの力にはすごいものがある。
生前のhideと共に歩いて来た人たちが本人らしさの実現に目を配り、映像担当が修正に修正を重ね、I.N.A.が新たに音を録音し直し‥。しかもこれはまだ始まりに過ぎないのだという。
ライヴでありながらどんどん内容を更新していく事も出来る、というこの公演の特質を活かしながら、10月の本公演ではさらなるヴァージョンアップもはかられるらしい。
封印を解かれたかのように、また本当に動き出したhide。この今という未来をぜひ体験して欲しい。

今津　甲